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分かれ道に立つ絵

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分かれ道に立つ絵

専称寺という古刹が山形市にあります。歴史ある大きな有名なお寺です。山形市は妻の実家があり、盆暮れと帰省していますが、古き良きたたずまいが残る旅心をくすぐる街でもあります。街中に用事があって出かけても、つい、絵になるところを探してしまう、そんな街です。

妻から専称寺に入ってみない?と教えられ行ったのは十年ほど前のことです。今は無くなってしまった大沼デパートでの個展を控えていたので、モチーフになるかも、、、と、出かけました。

大きな寺でした。

圧倒されましたが、描きたいポイントが見つかりませんでした。なんと言いますか、「有名な寺なんだよな、それはわかるし歴史も感じるけど、描きたいってのとは違うんだよな、、、」とウロウロ。

収穫なしか、、、そろそろ帰ろうか、と思って数歩。何の気無しに振り返った瞬間、専称寺がぐわっと強烈に迫ってきました。「ここだ!」

山形個展の制作で最後に仕上げた絵でした。本制作も気持ちが乗って、何か、分かれ道に立つような感覚があったのを覚えています。「キレイに描くんじゃないぞ。迫ってきた感覚を塗りこめろ」と、古刹から言われているように思いました。

 

個展会場では、「専称寺」は嫁ぎませんでした。

 

しばらくして、時々遊んでくれて絵の理解者でもあるU社長が、取引先のY支店長を連れてアトリエにやってきました。

「支店の移転祝いに、古山さんの絵を送ろうと思ってね。Yさん、予算はこれくらい!その中で好きな絵を選んでいいよ」

「絵なんて見たことないし、絵の見方もわかりませんよ、、、U社長が良いと思う絵でいいです」とY支店長。

いろいろ絵を出して見せていましたが、ふと「そういえば、山形の専称寺を描いた絵がありますが、、、でも、サイズ大きいから予算オーバーです」」というと、「なに!?専称寺?本堂の木像、左甚五郎だったんじゃないか?東北指折りの寺だよな!予算さておき見てみたいね、見るだけタダや。な?見たいだろ?Yさんも。古山さん、持ってきて!」と博覧強記のU社長は、目がキラキラ(笑)。専称寺を描いた絵を引っ張り出しました。

するとYさんの目が一瞬で変わりました。

「U社長!この絵、、、気に入りました!!」

「うわ、そうきたか!….」

結局専称寺の絵はY支店長が抱えて持ち帰り、支店応接室にかけられることになりました。

「絵って不思議だね。ぼくは専称寺の絵に出会うまで、全く絵に興味がなかったんだ。だけどね、専称寺の絵を見てから、どこへ行っても額に入った絵に目がいくんだ。人生の楽しみが増えたよ」

後ほどそのことをU社長に伝えると、悪戯っ子のように笑いました。

その後、Y支店長は支店を定年で退職しましたが、今も個展に欠かさず絵を見にくるようになりました。そして必ず「今回のお気に入り一枚!」を選んで私に伝えるのですが、どきっとするのは選ぶのがすべからく「今回のチャレンジ作=分かれ道に立っている絵」なのです。

自分の感覚に素直になること。

Y支店長から、その大切さを改めて教えられているような気がします。

専称寺、久しぶりに行ってみたいな。